「銀行に融資を断られた。でも、理由がよくわからない」
そんな声を、経営者の方からよく耳にします。売上もそれなりにある。赤字でもない。それなのに審査に落ちてしまった——。こういうケースの裏側を長年追ってきた私の経験から言うと、原因のかなりの部分が決算書の「質」にあります。
はじめまして。三上剛と申します。20年以上、年商3,000万〜1億円規模の中小企業・小規模法人の経営改善や融資支援に携わってきました。これまで累計400社以上の支援を通じて、実感していることが一つあります。それは、「税理士の質が、会社のキャッシュを左右する」という現実です。
実は私自身、格安の税理士と契約していた時期に会計処理のミスで余計なコストを負担するという苦い経験があります。その後、融資の現場で数多くの決算書を見てきたことで、「なぜこの決算書だと融資が通らないのか」が肌感覚でわかるようになりました。
この記事では、銀行が決算書の何をどう評価しているのか、そして決算書の「質」が融資審査にどう影響するのかを、現場目線でできるだけわかりやすく解説します。読んでいただくことで、「自社の決算書をどう改善すべきか」のヒントが掴めるはずです。
目次
融資審査における決算書の役割
銀行が決算書で判断していること
銀行が融資をする際、最も重視する資料が決算書です。銀行は預金者から預かった大切なお金を企業に貸し出しているわけですから、当然ながら「本当に返ってくるのか」という一点を厳しく見ます。
決算書には、会社の財産・負債・利益・キャッシュの流れが数字で凝縮されています。銀行はその数字を使って、主に次の3つを評価しています。
- 収益性:本業でちゃんと稼げているか
- 安全性:財務体力があり、返済に耐えられるか
- 返済能力:毎月の返済原資(キャッシュ)が生み出されているか
この3つを見るために、銀行は決算書を「会社の成績表」として読み込むわけです。
なぜ「過去3期分」を要求するのか
一般的に、銀行が求める決算書は直近3期分です。1期分だけでは、たまたま良かった年かもしれない。3期分を並べることで、業績のトレンドやキャッシュの増減傾向、勘定科目の動きを立体的に把握できるからです。
「今期は黒字だから大丈夫」と思っていても、3年間の流れで見れば判断が変わることは少なくありません。過去の決算書こそが、銀行にとっての最重要証拠です。
銀行が決算書で実際に見ているポイント
損益計算書(PL):経常利益の3年推移
銀行が損益計算書(PL)でもっとも重視するのが経常利益です。経常利益とは、本業の利益に加え、借入金の利息支払いなどを差し引いた、会社の通常の事業活動による利益のこと。
ポイントは「3年連続でプラスかどうか」です。3期連続で経常利益がプラスであれば、銀行の評価は大きく上がります。一方、3期連続でマイナスなら融資はほぼ通らないと考えた方がよいでしょう。
また、銀行は営業利益も重視します。営業外収益(例えば補助金や受取利息)で経常利益が膨らんでいたとしても、本業の収益力が低ければ「この会社の事業に将来性はあるのか」という疑問符がつきます。
貸借対照表(BS):銀行が細かくチェックする4つの項目
貸借対照表(BS)は、決算書の中でも特に丁寧に読まれます。以下の4点は特に重要です。
| チェック項目 | 銀行の視点 | 目安・注意点 |
|---|---|---|
| 現預金残高 | 資金繰りの安定性 | 月商の2〜3ヶ月分が目安 |
| 自己資本比率 | 財務体力・リスク耐性 | 数値より現預金の充実が優先 |
| 売掛金・棚卸資産 | 不良債権・不良在庫がないか | 売上と乖離していたら疑われる |
| 仮払金・役員貸付金 | 資金の不透明な使われ方 | 計上があるだけで大きなマイナス |
特に現預金については誤解が多いのですが、「借入金が多い=悪い決算書」ではありません。銀行にとって、借入金が多い会社は「それだけ信用されている会社」という見方もあります。むしろ現預金が少なすぎる状態の方が、資金繰りリスクとして深刻に受け止められます。
「財務実態」分析という見えない評価
銀行には「財務実態分析」という評価プロセスがあります。つまり、「出てきた数字が本当に実態と合っているか」を疑いの目で検証するのです。
具体的には、次のような確認が行われます。
- 売掛金が膨らんでいないか(架空売上の可能性)
- 棚卸資産が売上と比べて過剰に増えていないか(架空在庫の可能性)
- 減価償却が正しく処理されているか
- 役員への貸付金や仮払金が異常に多くないか
粉飾決算が見つかった場合、銀行との信頼関係は完全に崩れます。その後の融資はほぼ不可能になると思ってください。
決算書の「質」とは何か:税理士目線で解説
「正確な数字」が書いてあるだけでは不十分
多くの経営者は、「決算書は税理士に任せているから大丈夫」と思っています。でも、これが落とし穴です。
税理士は税務のプロですが、必ずしも「融資審査に有利な決算書」の作り方に長けているとは限りません。税務上は正しい処理でも、銀行評価を下げてしまうケースが実際に存在するのです。
「質の高い決算書」とは、単に数字が正確なだけでなく、銀行が読みやすく、信頼性が高く、会社の実態を正直に伝えるものです。
税務処理が融資評価に悪影響を与える典型ケース
実際の現場で、私が何度も見てきたパターンを紹介します。
① 減価償却の未計上
税法上、減価償却費を計上しなくても申告は可能です。赤字を避けたい経営者が、意図的に減価償却を飛ばすことがあります。しかし銀行はこの処理を必ずチェックします。減価償却を適切に計上していない決算書は、「実際の利益より膨らんで見せている」と判断されます。
② 一時的な損失を経常費用に含めてしまう
役員退職金や不良在庫の廃棄損など、本来は「特別損失」に分類すべき費用を、うっかり販売費及び一般管理費に含めてしまうことがあります。この場合、経常利益が実態より低く見えてしまい、融資審査で不利になります。
③ 役員借入金の勘定科目の誤り
社長が会社にお金を貸している場合、これは「役員借入金」として適切に分類されるべきです。ところが、短期借入金や長期借入金に含まれてしまっていると、通常の有利子負債と同じ扱いになり、財務状況が実態より悪く見えます。役員借入金は銀行評価において「実質的な自己資本」とみなされるため、正しく表記することが重要です。
④ 仮払金・貸付金が計上されている
仮払金や役員への貸付金が決算書に載っていると、銀行は「融資したお金が事業以外に流れるのではないか」と懸念します。これらの勘定科目が載っているだけで評価が大きく下がるのが現実です。実際、融資に詳しい専門家の間では、「この科目が計上されているのは、会計事務所が融資について知識がない証拠」とまで言われます。
補助金の処理方法も見逃せない
近年、事業再構築補助金やものづくり補助金を受給した企業が増えています。この補助金を原資に固定資産を取得した場合、「圧縮記帳」という税務処理を選べます。
圧縮記帳には「直接減額方式」と「積立金方式」の2種類があります。融資審査の観点からは、積立金方式の方が有利です。直接減額方式では決算書上の利益や純資産が減ってしまいますが、積立金方式であれば法人税申告書で処理するため、決算書上の利益や純資産を多く残せるからです。この違いを把握しているかどうかが、税理士の「質」の差に直結します。
税理士の関与が融資審査に与える影響
顧問税理士の有無が銀行の印象を変える
freeeの専門家インタビューによると、「金融機関は、融資を希望する事業主の決算書を見るとき、税理士が顧問を務めていれば一定の信頼を置いている」といいます。顧問税理士がいることで、銀行は「この会社は継続的に財務管理がされている」という安心感を得るのです。
また、顧問税理士がいることで、融資後も定期的に試算表や決算書を確認してもらえるという点も、銀行からすると安心材料の一つです。
「書面添付制度」が融資評価を底上げする
税理士が活用できる制度の中で、融資審査に直接プラスに働くものとして「書面添付制度」があります。
これは、税理士法第33条の2に基づき、申告書に「この申告書に税理士が関与し、適切に処理した」旨を記載した書面を添付できる制度です。日本税理士会連合会の説明によれば、書面添付を行うことで申告書類の信頼性が向上し、税務コンプライアンスの向上にもつながるとされています。
銀行の中には、この書面添付制度を利用している会社に対して、有利な条件で融資を行うところもあります。また、中小企業保証協会の保証料についても、会計処理が「中小企業の会計に関する基本要領」に基づいていることが確認できる場合、保証料率が0.1%割引になる制度も存在します。顧問料のコストを上回るリターンが期待できるケースも十分あるのです。
「融資に強い税理士」と「そうでない税理士」の違い
税理士の仕事は「税務処理の正確性」が基本ですが、それだけでは不十分です。融資に強い税理士とそうでない税理士の違いを整理すると、以下のようになります。
| 比較軸 | 融資に強い税理士 | 税務のみ対応の税理士 |
|---|---|---|
| 決算書の作り方 | 銀行評価を意識した処理を提案 | 税務申告を正確にこなすことが主眼 |
| 仮払金・役員貸付金 | 計上しないよう指導 | 指摘なしにそのまま処理 |
| 圧縮記帳の方式 | 積立金方式を優先提案 | 税務上の有利不利で判断 |
| 書面添付 | 積極的に活用 | 活用していない場合が多い |
| 融資相談 | 事前に準備資料の提案・同行支援 | 対応範囲外 |
「税理士は税務のプロ。融資は別の話」という認識の税理士だと、融資の場面でどうしても限界が出てきます。私の経験でも、顧問税理士を変えただけで融資審査が通るようになった経営者を何人も見てきました。
融資審査に通る決算書を作るためにできること
経営者自身が決算書を理解することの重要性
「決算書は税理士に丸投げ」という姿勢では、融資審査の本番で失敗します。銀行の融資面談では、担当者から決算書の内容について鋭い質問が飛んできます。
- 「今期、売掛金が増えていますが、理由を教えてください」
- 「仮払金の残高が気になるのですが、何ですか?」
- 「減収していますが、来期の回復見込みはありますか?」
こうした質問に社長自身が的確に答えられるかどうかも、審査の評価に影響します。「経営者が数字を把握できている会社」と「していない会社」では、銀行の信頼度が大きく変わるのです。
融資を見据えた決算書づくりのチェックリスト
今すぐ確認してほしいポイントをまとめました。顧問税理士との決算打ち合わせの際に、このリストを持ち込んでみてください。
- 仮払金・役員貸付金・貸付金の残高がないか
- 減価償却費は適正に計上されているか
- 役員借入金が他の借入金と混在していないか
- 一時的な損失は特別損失に分類されているか
- 補助金を受けた場合、積立金方式で処理されているか
- 売掛金や棚卸資産が売上と整合しているか
- 現預金は月商の2ヶ月分以上あるか
これらはすべて、税理士と経営者が一緒に意識することで改善できる項目です。決算が終わってから慌てても遅い。決算前の段階から、融資視点で数字を整えるという習慣を作ることが大切です。
実際の現場で起きた「決算書の質」の差
支援先の中に、売上約5,000万円の製造業の会社がありました。その会社、3期連続で黒字だったにもかかわらず、地方銀行からの融資を断られていたのです。
原因を調べてみると、決算書に役員貸付金が400万円計上されたままになっていました。しかも減価償却費は利益を守るためにほぼ未計上。見た目の利益は出ていても、銀行から見れば「この会社は実態が読めない」という印象を与えてしまっていたのです。
顧問税理士に相談しても「税務上は問題ない」との回答で、融資対策の視点が完全に抜け落ちていました。
その後、融資に詳しい税理士に切り替えて1年。役員貸付金を解消し、減価償却を適正処理した決算書を作ったところ、同じ地方銀行から2,000万円の融資を受けることができました。数字の実態は何も変わっていません。変わったのは「決算書の見せ方」だけです。
これが、決算書の「質」が融資を左右するということの実例です。
資金繰り表の整備も忘れずに
決算書だけでなく、資金繰り表を自主的に提出することも有効です。元銀行員の話によれば、「資金繰り表を持参してきた会社は必ず見る。しかも情報を提供しようとする姿勢として評価にもつながる」とのことです。
資金繰り表は、経営者が自社の資金の流れを把握していることの証明にもなります。日本政策金融公庫では申込時に提出書類として活用できる資金繰り表のフォーマットも公開されています。融資を検討している場合は、公庫の公式サイトで必要書類の詳細を確認することをおすすめします。
まとめ
今回の内容を振り返ります。
融資審査において、決算書は単なる「数字の羅列」ではありません。銀行はその数字から会社の収益性・安全性・返済能力を読み取り、融資の可否を判断しています。そして、その判断に大きく影響するのが、決算書の「質」です。
税務上は正確でも、銀行評価を下げてしまう処理は確かに存在します。仮払金や役員貸付金の計上、減価償却の未処理、圧縮記帳の方式の選択ミスなど——これらはすべて、融資に精通した税理士と連携することで回避できる問題です。
「税理士は税務のプロ。融資は別の話」と思わず、融資視点で一緒に決算書を作れる税理士をパートナーに選ぶこと。そして経営者自身が決算書の内容を把握し、銀行との面談に臨むこと。この2点が、融資審査を突破するための土台になります。
決算書の質を高めることは、融資対策だけでなく、会社そのものの経営力を底上げすることにもつながります。ぜひ次の決算を機に、顧問税理士と「融資審査を見据えた決算書づくり」について話し合ってみてください。